水戸地方裁判所土浦支部 昭和28年(ワ)49号 判決 1953年11月06日
茨城県土浦市荒川沖四
六十三番地
原告
鶴町運衛
右訴訟代理人弁護士
小松崎広嗣
東京都千代田区内幸町大蔵省別館内
被告
国税庁
右代表者国税庁長官
平田敬一郎
右指定代理人
木村宏
同
代理人 梶塚喜久雄
同
代理人 谷沢敏夫
同
代理人 横山茂晴
同
代理人 脇昭二
右当事者間の昭和二十八年(ワ)第四九号抵当権抹消登記手続請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は被告は原告に対し別紙目録記載の土地に対する水戸地方法務局土浦支局昭和二十七年十一月二十五日受付第三三二三号を以て為した被告国税庁のための昭和二十七年十一月二十二日付酒税納税担保提供に因る債権額金三十四万二千円の抵当権設定登記の抹消登記手続をなせ、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、請求趣旨掲記の土地は原告の所有に属するところ、原告は昭和二十七年十一月十日被告に対し訴外昭華酒造株式会社が昭和二十七酒造年度において製造した酒類を移出するに際して納付すべき基本税及び加算税計金三十四万二千円の担保として右土地を提供し、同月二十五日水戸地方法務局土浦支局受付第三三二三号を以て請求趣旨掲記通りの抵当権設定登記を終了した。しかるに本件抵当権はその後昭華酒造株式会社において右基本税および加算税を完済した結果消滅したので、原告はこれまで屡々被告に対しこれが抹消登記手続を求めたが応じないから本訴請求におよんだと述べ、次で被告の当事者適格に付き国家行政組織法(昭和二十三年法律第一二〇号)、法務府設置法(昭和二十二年法律第一九三号)、国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律(昭和二十二年法律第一九四号)および民事訴訟法ニヨリ国ヲ代表スルニ付テノ規程(明治二十四年勅令第三号)等を照合対照すれば、国税庁は大蔵省の外庁として独立して国税徴収を為し得る国家の行政組織であつてその権利主体となり得べきものと解するから、国税庁は本訴訟について被告たる当事者適格を有すると附け加えた。被告指定代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の事実中別紙目録記載の土地が原告の所有に属することおよび原告が右土地に付きその主張通りの抵当権設定登記をなしたことは認めるが、訴外昭華酒造株式会社が昭和二十七酒造年度における製造酒の移出に対する基本税および加算税を完納したことは否認する。すなわち土浦税務署長は右訴外会社が昭和二十七酒造年度において製造して移出した焼ちゆう乙類中六石八斗八升について法定の移出石数の申告をしなかつたことを発見し、昭和二十八年八月十四日同会社に対し右石数に対する税額金二十一万四千八百五十円の課税を決定し、同月三十日限り納入するよう告知したが、同会社は未だに右税額を完納しない。よつて右訴外会社に対する租税は残つているのであるから、債務の完済を理由として抵当権設定登記の抹消を求める原告の本訴請求に応ずる義務はない。なお国税庁は民事訴訟法上当事者適格を有しないからこの点においても原告の請求は失当であると述べた。
理由
本訴訟が国の利害に関係のある民事訴訟であることは原告主張の事実に徴し明らかなところ、原告は被告を国税庁にしまたその代表者を国税庁長官にしているから、職権をもつてその当否について検討するに、この種訴訟については従来から国を被告となすべきものとせられ、現在においても之が変更せられていないことは、「民事訴訟法ニヨリ国ヲ代表スルニ付テノ規定」(明治二十四年勅令第三号)及び「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限に関する法律」に照し毫も疑なく、従つてこれと異なる見解の下に提起された本訴訟は不適法なものといわざるを得ないのであるが、仮に国税庁を被告としたことをもつて単なる表示の誤りと解し本訴訟が国に提起されたものと云ひ得るとしても、その代表者を法務大臣とすべきことは右「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限に関する法律」第一条により極めて明白である。尤も法務庁設置法(昭和二十二年法律第一九三号)施行以前においては前記「民事訴訟法ニ依リ国ヲ代表スルニ付テノ規定」あるいは「国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律」(昭和二十二年法律第一九四号)附則第三項による改正前の郵便貯金法第五条等により関係庁の長官またはその指定する所属官吏が国を代表して訴訟を行つていたけれども、右「国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律」施行後は法務総裁(現在は法務大臣)が一元的に国を代表してその衝に当ることになつたものである。したがつて之と異なる原告の見解もまた採用できない。そうすると本訴訟は代理権限のない国税庁長官を国の代表者として提起された不適法のものであるから、本案審理に入るまでもなく失当として之を却下することとし訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 鈴木盛一郎)
目録
土浦市荒川沖字馬建場八百二十番
一、宅地 四百二十坪
同所八百二十四番の四
一、宅地 四百二十四坪二合五勺
同市荒川沖字大道東六百四十三番地
一、宅地 四百二十八坪
同所六百五十二番の一
一、宅地 五百六十九坪九合三勺 以上